書籍

なんしょんな!!香川・PARTT
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「行政の役割」水は誰のものか/人の渡らぬ橋、車の走らぬ道/広い家 他
1,200円(税込み)
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なんしょんな!!香川・PARTU
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「高齢者対策の処方箋」
1,200円(税込み)
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なんしょんな!!香川・PARTV
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「教育の危機」学校教育の危機/崩壊する家庭教育/的外れの企業内教育
1,200円+税
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なんしょんな!!香川・Q&A BOOK
なんしょんな!!香川・Q&A BOOK
「Q&A」行政の役割/水問題/交通問題/時事
800円(税込み)
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKU
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この本は、都村長生氏の政経塾「長生塾」とそのホームページに寄せられた質問に対し、都村氏が答えた内容をまとめたものです
800円+税
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKV
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKV
この本は、当ホームページに寄せられた質問に対し、都村氏が答えた内容をまとめたものです。
100円+税
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKW
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKW
この本は、当ホームページに寄せられた質問(2003年5月〜2007年3月)に対し、都村氏が答えた内容をまとめたものです。
100円+税
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKX
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKX
この本は、当ホームページに寄せられた質問(2007年5月〜2008年12月)に対し、都村氏が答えた内容をまとめたものです。
100円+税

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なんしょんな Q&A詳細

  • 【76】 (1)中国とはどういう国か?(2005.11) (香川県・46歳・男)
     近年ますます日中関係が話題になり始めました。少し前は企業の中国進出がブームになり、ガス田開発問題では緊張感が高まり、靖国問題では反日感情が高まり、正直言って私の中では中国との友好関係、あるいは緊張関係がどうあるべきか整理がつきません。単刀直入にお伺いしますが、都村さんは中国をどういうふうにとらえていらっしゃいますか?
  •  最近私もいろんな人から中国についての質問を受けます。中国は大きな貿易相手だから大事にしないといけないとか、逆に中国人は信用できないとか、すぐ中国に謝りに行く政治家がいるのはいかがなものかとか、いろんな話も聞きますので、中国に対する私の見方をお話ししておきます。

     私は、中国という国を世界中のほとんどの人がどこか大きく錯覚していると思っています。私は中国には調査やビジネスで20回も30回も行っていますが、その経験から顧みて、その錯覚が近い将来世界経済を揺るがす混乱の原因になる恐れがあると思っています。その大きな錯覚とは、将来起こるかもしれない混乱とは何なのかを、ビジネスの立場からと政治の立場からの2つに分けて考えてみましょう。

    中国には「法律がない」

     まず、ビジネスについて。中国で世界共通のビジネスのルールや考え方が通用すると思っていること自体が大きな錯覚なのです。中国では「法律はない」と思った方がいい。

     先日フランス人と話をしていた時に、私はこんな話をしたのを覚えています。
    「世界中で、極端に個人主義で自分のことしか考えず、組織の中で動くのが嫌い、というタイプの人種が2つある。それはフランス人と中国人だ。ただし、フランスと中国には大きな違いが1つある。それは、フランスには法律があるけど中国にはないということだ。個人主義と個人主義がぶつかると必ず対立が起こるけれど、フランスには法律があるから必ず最後は法律に則って解決してみんな納得する。しかし中国は個人主義の上に法律がないから、いつまで経ってもみんな"自分の言うことが正しい!"と言い張るだけだ」

     中国は官僚制度をベースとした共産主義独裁の政治体制をとっています。従って、実際は中国にも法律はあります。しかし、その法律の運用のほとんどの部分が役人の裁量に任されていて(特に地方へ行けば行くほどひどい)、ほとんどが賄賂でどうにでもなる。ですから、法律がない状態と何ら変わらないのです。私は何度か中国でビジネスの現場に携わりましたが、中国では外資が行う全てのビジネスは許認可制です。で、役人に最初に「これ、できるか?」と聞くと、必ず「できない」と言うんですね。明らかにできることでも100%「できない」と言う。なぜだかわかりますか? 要するに「お金を持って来い」ということなのです。「お金を持ってきたら俺が何とかしてやる」というわけです。これはもう、ルールがある状態とはとても言えません。ルールがないのにビジネスはできません。

     他にも例を2、3示しましょうか。中国でも企業は法人税を払わないといけません。日本では当然、法人税の税率は決まっていますね。ところが中国は一応税法はあるものの、実際は決まった税率はないに等しい。信じられないことに、役人と企業の間で「さて、今年のお前のところの税金はいくらにするか」という相談が始まるのです。要するに「俺にいくら渡してもらおうか」というわけです。税金がいくらかわからないのにビジネスができるわけがない。

     実は、中国の役人はそういう賄賂で食っていると言っても過言ではありません。中国の役人の給料は、いい人でだいたい月に3000元(日本円で5万円くらい)ですが、そういう役人が50万元くらいの車に乗っていたり子どもを外国に留学させたりしているのは普通のことです。「役人が賄賂で逮捕されて重罪になった」とかいうニュースをたまに聞いて、厳しく取り締まっているように思う人がいるかもしれませんが、中国に役人はおそらく1000万人以上いて、引っかかったのは1000人にも満たない。ほとんどが野放し状態です。あるいは取り締まる側も賄賂で動いていると思った方がいい。従って、フェアな競争が保証されず、ビジネスの形態が歪んできます。

     また、こういう話もあります。広州に行っていた頃私が発見した法則ですが(今、現地では"1000/600/300の法則"と言って笑い話の種になっていますが)、例えば5つ星のホテルで1000元の物を買おうとした時、私が英語か日本語で買おうとすると1000元なのに、通訳を立てて標準語の中国語で買うとそれがいきなり600元くらいになる。それを広州語をしゃべる人に買ってもらうと、300元になる(中国では各地方ごとに全く違う言葉を使っています。極論すれば北京人と広州人の会話にも通訳が必要です)。全く同じものを全く同じ人から買って、そういうことが当たり前のように起こるのです。旅行に通訳を連れて行って同じ飛行機に乗って同じホテルに泊まったのに、日本人の私は値段を倍くらい取られる。「おかしいじゃないか」と言ったら、「何がおかしいんだ。お前は日本人だから高いんだ」と平気な顔で返されます。正札の存在しない市場でビジネスは育ちません。それが中国なのです。

     「アンフェアだ」と怒るよりも「中国はそういう国だ」という認識がほとんどの日本人にないのが問題なのです。能天気に「同じアジア人だから日本と同じだろう」と錯覚してしまう。ビジネスのルールが通用しない上に、個人主義者ばかりだから要求は120%してくるが義務は10%も果たさない。そういう中でビジネスをする大変さというのを、ほとんどの人が根本的にわかっていないで、期待だけ先行しているから被害も大きくなってしまう。少しでも理解していれば何とかなるのに…と思います。ただし、今まで述べてきたような錯覚に基づくビジネス上の障害は、企業努力により時間さえかければ克服可能です。

    今から出て行くのは遅い

     ビジネスの世界ではますます中国ブームで、日本からも生産業を中心にどんどん中国に進出しています。香川県からも何十社も中国に進出していますが、私は正直なところ、15年くらい前に進出して行った企業だけが成功し、最近になって出て行ったところはみんな失敗すると思っています。1990年台の初めくらいまでは、私は相談されると「中国に行きなさい」と言っていました。しかし7〜8年くらい前から、「中国に出て行きたいのだが」と相談を受けたら「やめなさい」と言っています。それはなぜか?

     1985年から1990年頃までに中国に進出していった企業はみんな、日本のビジネスのルールが通用しないという状況の中で大変な苦労をしながら一生懸命ノウハウを蓄えて、やっと今成功しているのです。香川県にも私のサジェスチョンに従い、中国に出て行って成功している企業がありますが、そこも15年くらい前に行きました。しかも中国に行く時には、まず台湾に出て行って、そこで学びながら中国に進出して、それでも何度か失敗して何とか今成功している。つまり、中国で成功するには時間がかかるのです。おそらく今から中国に進出しても、先例を踏まえて取り組んだとしても10年くらいかかると思います。

     しかし、私が「中国進出はやめた方がいい」と言っている理由は、ただ時間がかかるからということではありません。中国はおそらく、これから10年くらいの間に必ず大きな変動(カントリーリスク)が起こり、今から出て行ったら成功する前に回収不能な状況が起こると思っているからです。

    1万倍の貧富の差

     これも私の持論なのですが、世界の歴史上の国を調べてみると、国の中で貧富の差、言い換えればその国の大多数の市民とビジネスの成功者の収入の差が数百倍の範囲にあれば革命とかいった乱暴なことは起こらないが、千倍を超えると何か乱暴なこと(政治的な動乱等)が起こる。それが私の世界史を見る時の法則です。例えば日本では、新入社員の給料が年収200〜300万円で、会社の社長になると年収が平均3000万円とか5000万円とか。つまりだいたい十倍くらいですね。アメリカでは新入社員が仮に年収300万円くらいだとすると、企業のトップは数億円。上を言えばきりがありませんが、だいたい百倍くらいといったところです。だから日本やアメリカでは体制の変動はとりあえず起こらない。では中国はどうか?

     中国は実は千倍ではなく、1万倍なんです。中国の人口は13億人と言われていますが、そのうち10億人くらいが地方の貧しい農民で、豊かになっているのは北京とか上海とか香港の沿岸部の1億人くらいですね。その貧しい農村部の10億人くらいの年収は、未だに数千元(5万円くらい)だと言われています。さらにそのうち半分以上が年収1万円にも満たないだろうというのが通説です。

     中国の貧しい人たちの生活をご存じでしょうか? 私は世界の国に行った時に必ず、その国の一番大多数の人たちがどういう生活をしているかを直接マーケット(現場)に入って見に行くのですが、中国ではまず広州の農村部を見に行きました。そこは中国で最も豊かな農村地帯なのですが、広州市の都心から高速道路を50キロくらい走ると一面田んぼ地帯になります。その中にむしろを立てかけただけの民家のようなものが5〜6軒見えたので同行した通訳の人に聞いてみたら、中国の小作人の家だという。豊かな農村地帯の中で一番貧しい農民層ですね。そこで私は「服が汚れるからやめた方がいい」という通訳を押し切って、背広を着たままヒザ近くまで泥だらけになって田んぼの中を500mくらい入って行きました。無論、道などあるわけがない。家(というか小屋というか…)まで50mくらい近づくといきなり、放し飼いにされた犬や猫やアヒルといった動物が30匹くらいワーッと出てきて、ワンワン!ガーガー!と大騒ぎになりました。その時は「何でこんなにペットがいるんだ?」などと不思議に思いましたが、あとから考えるとあれは全部食料なんだと気づきました。

     家の中を見せてもらったら、むしろで囲っただけの家は6畳くらいの広さで中は土のままの土間。そこに1畳くらいのござを敷いてある。その中で5〜6人が生活をしているのです。聞くと、「この辺りの小作の中では俺が一番金持ちだ」と言う。年収を聞くと3000元くらい。日本円で年収5万円くらいです。大きな鍋でちょうど昼飯を炊いていましたが、ガスも電気も水道もありません。燃料は薪です。「水はどうするんだ?」と聞くと、「そこにあるじゃないか」と言って向こうの泥水の流れている用水路を指差しました。そこから水をくんで来て、それでご飯を炊いている。「飲料水は?」と聞くと同じ用水路を指差して「あれを飲めばいいじゃないか」と言う。「日本人と話すのは戦争以来だ」と言っていましたから、誰もこんなところまでは来ていないのでしょう。誰も現実を見たことがないという証拠でもあります。

     これが中国で一番豊かな農村地帯の小作人の生活です。農機具は「せんばこき」のような、ほとんど日本の江戸時代のものを使っています。これがもっと貧しい東北地帯の農村に行くと、ほとんど竪穴式住居で生活しているような状況ではないでしょうか。中国にはそういう生活をしている人が5億人も10億人もいると思えば、少しは実態がイメージできると思います。

     一方成功者はといえば、広州市でモーターショーがあった時に1台1億円の車が飛ぶように売れたというくらいですから、年収数億円の人がごろごろいます。すると、貧富の差は1万倍になりますね。つまり中国では、10億人の非常に貧しい人とその1万倍の年収がある少数の豊かな人が、一緒に同じ国に生活しているわけです。先の広州の場合、年収5万円の小作人のいる農村地帯からたった50キロ行くと、東京と同じ摩天楼がそびえ、年収数億円の人が1億円の車に乗って走っているわけです。

     しかもまずいことに、中国は国策として教育に力を入れ始めていますから貧しい農村の子どもでも学校に行き始めています。学校へ行くとインターネットも見られますから情報がどんどん入ってきますね。それがクチコミも手伝って貧しい人たちの間にも流れていく。昔は情報を隔離していましたから、農村部では国内に豊かな人がいるということがあまり知られていなかったと思いますが、今、みんながそれを知り始めているわけです。今も政府は必死に情報をコントロールしようとしていますが、インターネットの時代にそんなことは不可能でしょう。すると、「なぜ俺たちはこんなに貧しいんだ」と思う人々が必ず出てくる。人間の心理からすると、年収の差が数十倍とか数百倍の間だと貧富の差がモチベーションアップの方向に働き、「俺も努力したらあれくらいになれるかもしれない。がんばろう!」と思って一生懸命働く人が出てくる。しかしこれが千倍以上になると、とてもがんばってどうにかなる差ではありませんから、もう殴って奪うしかないと思うようになる。中国ではそれが1万倍。すると当然、革命とかそういう乱暴なこと(体制の変換)に向かうわけです。それが歴史の必然です。中国の社会というのは今、明らかにそういう状態にあります。

     おそらく中国はこの10年、20年のうちに、かなりドラスチックに(流血革命になるのか分裂になるのか、あるいは緩やかに豊かな地方が独立していくのかわかりませんが)国が分裂すると思います。豊かな者と貧しい者に分裂するのです。その時は何しろビジネスのルールのない国ですから、例えば外資系の企業の財産没収だとか、そういうことが平気で起こる可能性があります。これが、私の危惧する「カントリーリスク」です。だから今から中国に進出しようとしている企業に「行かない方がいい」と言っているのです。

    中国のカントリーリスクを想定しないといけない

     7〜8年前から私は、中国にすでに進出して成功している私の顧客に対して「資産を全部整理した方がいい(工場や土地は全部売って、借家、借地にした方がいい)」とアドバイスしています。カントリーリスクが現実化した場合に被害を最小限にするためにできるだけ変動費化しておき、いつでも動けるようにすることと、あとは中国以外に生産基地をマルチで持っていつでも代替地で生産できるようにすることを勧めています。また実際に皆、そうし始めています。

     最近になって中国に出て行った人は、残念ながらうまく行き始めた頃に何か大きな動乱期に出くわすと思います。最悪の場合、全部没収という事態になる危険性もあるでしょう。何しろ中国ではそんなことをしても誰も悪いと思っていないのですから。リスクは生産業だけとは限りません。例えば、トヨタが今中国にどんどん車を売っていますが、あれも全て大変な目に遭う可能性があります。年収3000元とか5000元の人が貯金もないのに簡単にローンが組めて(これも政府が認めています!)30万元くらいの車をどんどん買っているのですが、みんなちゃんとお金を払うのでしょうか? 私は20〜30人くらいの車を買った人に直接話を聞きましたが、「不景気になって仕事がなくなったら車の支払いをどうするんだ?」と聞いたら「そんなこと知るか。俺の責任じゃない。俺が払えなくなったら車を取りに来たらいいじゃないか」という答でした。個人主義の国の人のメンタリティとは、そういうものです。断言しますが、かなりの人は完済することなど考えていませんよ。ローンはトヨタ自身はやっていないと思いますから、中国の代理店が被害に遭うのか保険会社が遭うのかわかりませんが、トヨタも少なからず被害を被るでしょう。

     こういうことは中国に進出している世界中のあらゆる業界に起こりますから、中国のカントリーリスクが現実化すると世界中が大変な目に遭うと思います。いずれにしろ、民主主義の国のビジネスの常識で中国を測るのは全くの見当違いだ、またその錯覚に対して当然のペナルティを払わされるだろう、というのが私の意見です。では次に、ほとんどの人が気づいていないのですが、その大きなリスクを生じさせる根本原因は何かについて考えてみましょう。

    13億人を治める中国は、政治の目的が違う

     次に政治の面での錯覚を見てみます。アメリカや日本では「中国はいずれ民主化、自由化され、我々の国と同じようになるべきだ。それが中国人民にとっても幸せな方向だ」という識者や政治家が大半です。だから、人権問題や通貨自由化等で中国に改善を迫る。我々も何となくそうだと思っている。本当にそうなんでしょうか? 私は、アメリカや日本などの民主主義の国の人の多くは、そこを根本的に錯覚していると思っています。少なくともこの数十年は、民主化などすれば世界中カオスになる恐れが強いのです。

     民主主義というのは「投票でみんなの代表を選んで、その代表たちの決定に従って、あとは自由競争に任せましょう。そうすると最大多数の人が幸福になれますよ」というルールですが、それが通用するのは人口2億人くらいまでの国に限るのです。2億人くらいだったらエネルギーにしろ食べ物にしろ、今の世界の経済で食べさせていく方法があるからです。アメリカは2億人くらいで、日本は1億人くらい、ヨーロッパも全部で2億人くらい。すなわち2億人を豊かにする方法としてのみ、民主主義というのは非常に有効だと知ってください。

     ところが中国は13億人いるわけです。一人っ子政策のせいで農村部に戸籍のない2人目、3人目の子どもがかなりいるはずですから、本当に人口調査をしたら15〜16億人いると思いますが、この「13億人を食べさせないといけない」ということが、中国の抱えているもう一つの大きなカントリーリスクの根幹にあります。世界の人口が60億人くらいですから、その4分の1か5分の1が中国人です。そのうちの貧しい10億人が日本やアメリカみたいに豊かな生活をし始めたら、地球上の食料とエネルギー(石油)ではとても足りない。従って、残念ながら今の科学力、技術力では中国の10億人を豊かにすることはできない、つまり解はないのです。1億人を豊かにする解と10億人を豊かにする解は明らかに違うのです。そこを勘違いして同じだと盲信している人があまりにも多い。では中国はいったいどうするつもりなのか?

     民主主義の政治の目的が「なるべく大多数の人を豊かにする」というものだとすると、おそらく中国共産主義の政治の目的はそうではない。当然、本音では「1億人の豊かさを保持するために、いかにしてその他の大多数10億人を長期間、不幸な状態に置いておくか」というのがテーマになるはずだと気づくべきです。13億人全員を豊かにしようとすれば、結果的に全員が不幸になってしまうのですから、目指すとすればそこしかないでしょう。今まで世界史の中で、こんな解のない政治運営を迫られた政府はないでしょう。その意味で私は中国の指導者に同情を禁じ得ません。

    貧しい者の隔離

     実際、中国の国内政策を見てみると、そうしたドグマがいくつかうかがい知れます。例えば今、中国では上海をはじめとする沿岸部が非常に栄えていますが、そこに農村部から貧しい人がどんどん集まってくると、都市の養える人口にも限界がありますから、職がないとか水が足りないとか治安が悪化するとか、困ったことになる。すると、都市の裕福な人を守るためには、貧しい人たちが都市に流入してくるのを防ぐ制度が必要になってくるわけですね。私が思うに、中国は今、必死になって都市がふくれるのを防ぐための制度を三つ実施していると思います。一つは戸籍制度です。中国には今でも厳格な戸籍による差別が現存しています。例えば、「農民」という戸籍では、都市で仕事ができないことになっているのです。さらに「貧農」という戸籍もあります。「貧農」はどこに行ってもまともな仕事にはつけません。

     もう一つは一人っ子政策です。都会では一人っ子政策を厳しくチェックしていますから、人口が増えません。つまりこれも、都会がふくれあがるのを防ぐ制度といえます。ちなみに農村では一人っ子政策があるにもかかわらず戸籍に入っていない子どもがたくさんいます。理由はシンプルです。農作業がすべて人力だから、人手が必要なのです。以前農村で農民に話を聞いた時、「こんなに広い土地があるのになぜ大規模な農業をやらないのか?」と聞いたら「そんなに子供を産めない」と言うんですよ。私は最初、何を言ってるのかわかりませんでした。すると「一人で一生懸命田んぼを耕してもせいぜい一人1反だ。お前の言うように10反もやろうとしたら子供が10人もいる」と言われました。ただ、「独生子(一人っ子)問題」についてはどこかで別に論じたいと思います。これにはもっともっと未来での根の深い問題が含まれていますので。

     都市の膨張防止策の三つ目は交通手段だと思います。シティと農村間の交通手段がないのです。バスがありません。都市まで50kmといっても、歩いていくしかない。すると、都市で働こうと思っても農村部からは通勤できないのです。これも政府が意識的にやっていることでしょう。こうやってあれやこれやで都市部への人口流入を止めようとしても、実際には人口流動に歯止めはかからない。上海等では人口の5分の1から4分の1が戸籍のない流動人口だと言われているくらいなのです。中国の現在の都市政策には、「貧しい者を貧しい状況に隔離しておかねばえらいことになる」という本音が如実に表れていると思います。加えて、いずれは世界的に大問題化するであろう公害問題(大気汚染、水質汚染等)も、通貨の自由化も、ガス抜きとしての靖国問題も、ガス田開発への執着も、そういう目で見れば少しは理解できるのではないでしょうか?

     いずれにしろ中国が13億人の国民を抱えて治めていくためには、不満を出さずに10億人を不幸な状態に置いておくという政治システムが必要になってくる。私は共産主義を肯定しませんが、そういう意味では共産主義というのは非常にいいシステム(必要悪)だと思います。今の中国は、共産主義独裁政府と強力な軍隊という2つの毒でこの矛盾を押さえ込んでいると言っても過言ではない。10億人近い人口を持つインドにおけるカースト制度も、同じ意味で必要悪のシステムだと思います。私は共産主義もカースト制度も全く支持しませんが、皮肉な話ですが中国とインドに限り、今は認めざるを得ません。私には他に解が思いつかないからです。唯一、解があるとすれば、エネルギーを無尽蔵に生み出せるとか(海水から水素を自由に取り出せるようになるとか)、ちょっと振りかけるだけで小さな野菜が巨大になるとかいう、技術にイノベーションが起こった時だけです。しかしこの数十年は望むべくもない。それが今無理だとすれば、毒をもって毒を制するしかない。もし今、中国やインドで共産主義やカースト制度の縛りがなくなったら、パンドラの箱を開けるようなパニックが世界中に広がる可能性が大だと思っています。だのに現在、「中国市場を開放しろ」とか「連邦制にしろ」とか「元を自由化しろ」とか、あまりに能天気に無責任なことを言う人が多い。私には民主化、自由化を唱える勇気はありませんが、そういう輩には「"解"を用意してからモノを言え」とだけ申し上げておきたい。

     まとめてみましょう。中国には「民以食為天」(民は食を以て天と為す=中国で政治とは食わすことだ)という言葉があります。食べられるようにしておきさえすれば、この国は何とかなるということです。逆に言えば、中国3000年の歴史で「為天」を成し就げた人は中国にはいないということでしょう。中国はそれだけ難しい社会なのです。そんな社会を何の対策もなく自由化すれば、どんなに楽観的に見ても金持ちと貧乏人の間の戦いが起こらないわけがありませんし、中国の分裂は世界経済に大混乱を引き起こすこと必定でしょう。世界中の歴史を見ても、1万倍もの収入の格差がついた社会が長持ちした試しはないのです。そこをアメリカも日本も根本的にわかってないというのが私の感想です。私も現時点で中国のあるべき政治システムについて、解のない迷路に入り込んでいます。従って、今までは沈黙を守ってきましたが、警鐘だけは鳴らすべきだと思って今回お答えしました。今は、分裂がなるべく穏やかな形で起こることを祈るのみですが、分裂したからといっても根本の問題が解決するわけでもない…。何とも言えぬ無力感にさいなまれています。おそらく中国をどうするかは21世紀世界で最大のイシューとなるでしょう。